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大阪地方裁判所 平成9年(行ウ)68号 判決

原告

株式会社丸一商店

右代表者代表取締役

戎野喜和

戎野喜晴

右訴訟代理人弁護士

須田政勝

被告

大淀税務署長 山本哲

右訴訟代理人弁護士

辻中榮世

右指定代理人

谷岡賀美

原田一信

松尾安起

浅井孝二

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して平成八年七月九日付けでした原告の昭和六三年六月一日から平成元年五月三一日までの事業年度(以下「平成元年五月期」といい、事業年度については同様に表示する。)以降の法人税についての青色申告承認取消処分を取り消す。

2  被告が原告に対して平成八年七月九日付けでした原告の平成元年五月期、平成二年五月期、平成三年五月期、平成四年五月期、平成五年五月期、平成六年五月期、平成七年五月期の各事業年度(以下、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税についての更正処分及び重加算税(なお、平成元年五月期、平成四年五月期、平成六年五月期及び平成七年五月期は一部過少申告加算税)の各賦課決定処分は、平成元年五月期につき所得金額四二二〇万六四二〇円、平成二年五月期につき所得金額四二五六万〇〇〇二円、平成三年五月期につき所得金額四七八万五〇〇一円、平成四年五月期につき所得金額九八二二万〇二六三円、平成五年五月期につき所得金額二二〇万七二八三円(ただし国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)、平成六年五月期につき所得金額二八七五万二二〇一円(ただし国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)、平成七年五月期につき所得金額一億七六四一万五〇七三円(ただし国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも超える各部分を取り消す。

3  被告が原告に対して平成八年七月九日付けでした平成三年五月期の法人臨時特別税、平成四年五月期及び平成五年五月期の法人特別税についての各決定処分(平成四年五月期については更正処分)及び重加算税(平成四年五月期は一部過少申告加算税)の賦課決定処分(ただし、平成四年五月期については、法人特別税額七二万七七〇〇円を超える部分、平成五年五月期については国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。

4  被告が原告に対して平成八年七月九日付けでした平成二年五月期ないし平成七年五月期の各事業年度に対応する課税期間(以下「本件各課税期間」という。なお、平成二年五月期の事業年度に対応する課税期間を「平成二年課税期間」といい、以下、順次、各事業年度に対応する課税期間について同様に表示する。)の消費税についての各更正処分及び重加算税(平成五年課税期間及び平成六年課税期間については一部過少申告加算税)のうち、平成二年課税期間につき課税標準額九億二一七七万五〇〇〇円、納付すべき消費税額二二八万五六〇〇円を超える部分、平成三年課税期間につき課税標準額一〇億八〇三六万六〇〇〇円、納付すべき消費税額四〇八万四七〇〇円を超える部分、平成四年課税期間につき課税標準額一三億〇七三六万三〇〇〇円、納付すべき消費税額一三九万一七〇〇円を超える部分、平成五年課税期間につき課税標準額一一億二二五〇万五〇〇〇円、納付すべき消費税額四四八万二〇〇〇円を超える部分(ただし国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)、平成六年課税期間につき、課税標準額一一億六九六二万六〇〇〇円、納付すべき消費税額四九一万一三〇〇円を超える部分(ただし国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)、平成七年課税期間につき、課税標準額一六億七〇三〇万円、納付すべき消費税額八八四万八四〇〇円を超える部分、以上をいずれも取り消す。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、砂利採取及びその販売及び残土等の廃棄物の処理等を業とする株式会社である。

2  原告は、昭和六三年五月期以前の事業年度につき、その法人税について被告から青色申告の承認を受けていた。

3  原告は、本件各事業年度の法人税、平成四年五月期の法人特別税、本件各課税期間の消費税につき、被告に対し、別表1ないし7、9及び11ないし16の各「確定申告」欄記載のとおりの日に、それぞれ同欄記載のとおりの青色申告書による確定申告をした。

原告は、更に、平成元年五月期ないし平成四年五月期の法人税、平成四年五月期の法人特別税、平成二年課税期間及び平成三年課税期間の消費税について、別表1ないし4、9、11及び12の各「修正申告」欄記載のとおりの日に、それぞれ同欄記載のとおりの修正申告をした。

4  被告は、平成八年七月九日、原告の平成元年五月期以降の法人税の青色申告承認を取り消す処分(以下「本件取消処分」という。)をし、別表1ないし16の各「更正・決定」欄記載のとおり、本件各事業年度の法人税、平成四年五月期の法人特別税、本件各課税期間の消費税の各更正処分及び平成三年五月期の法人臨時特別税、平成五年五月期の法人特別税の各決定処分(以下、これらを併せて「本件更正処分等」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分(以下、これらを併せて「本件各重加算税決定処分」といい、本件取消処分及び本件更正処分等と併せて「本件各処分」という。)をした。

5  原告は、平成八年八月一九日、被告に対し、本件各処分につき、異議申立てをしたところ、被告は、同年一一月一四日、右異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をした。原告は、更に平成八年一一月二七日、国税不服審判所長に対し、右決定につき審査請求したところ、国税不服審判所長は、平成九年六月三〇日、別表1ないし16の各「裁決」欄記載のとおりの棄却裁決又は本件更正処分等及び本件各重加算税決定処分の一部を取り消す旨の裁決をした。

6  本件各処分は、次のとおり違法である。

(一) 被告は、原告の本件各事業年度について、原告が架空仕入を計上して取引の仮装・隠ぺい行為をしたこと等を理由として、本件各処分をした。

(二) しかし、被告が架空仕入であるとする取引は、いずれも現実の仕入であるから、被告の本件各処分はいずれも理由がなく、違法である。

7  よって、原告は、被告に対し、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし5の事実は、いずれも認める。

2  同6は争う。

三  被告の主張

1  原告は、本件各事業年度の取得金額につき、残土処分費用及び砂の仕入代金として、福崎商店こと福崎太一(以下、「福崎商店」という。)、三浦商店こと三浦春男(以下「三浦商店」という。)、岩下海運こと岩下良次(以下「岩下商店」という。)及び泉南砂利こと川本政昭(以下「泉南砂利」といい、以上四名を「本件四業者」ともいう。)に対し、別表17の2欄及び別表18の1ないし7のとおり支払った旨申告し、その旨の帳簿書類を作成し、本件においてもその旨主張している。

しかし、右の各金額は、いずれも、架空の仕入による金額であって、原告は、本件四業者名義の請求書を偽造し、さくら銀行姫路支店の福崎太一名義の普通預金口座(口座番号五一四八五九〇、以下「福崎口座」という。)、兵庫銀行(現みどり銀行)鳴門支店の三浦春男名義の普通預金口座(口座番号三一八九八一、以下「三浦口座」という。)、兵庫銀行(現みどり銀行)明石支店の岩下良次名義の普通預金口座(口座番号六二八八七二、以下「岩下口座」という。)及びさくら銀行岸和田支店の川本政昭名義の普通預金口座(口座番号三三〇六三二一、以下「川本口座」という。)を原告自ら開設するか、又は右各口座を実質的に支配し、原告から右各口座へ別表18の1ないし7のとおり、各振込年月日に金員の振込手続を採って、恰も原告が本件四業者に右金額を仕入代金として支払ったかの如く装い、その旨を帳簿書類に記載した。

このように、原告は、本件各事業年度の所得金他の全部又は一部につき、税務当局に対し、仮装・隠ぺい行為を行って、架空の仕入を計上し、それに基づいて、法人税の確定申告や修正申告をし、法人臨時特別税や法人特別税及び消費税(架空仕入計上の結果、消費税相当額の雑収入を除外したことになる。)の確定申告をし、又はそれらをしなかった(国税通則法六五条、六六条、六八条参照)。

2(一)  原告は、大阪日野自動車株式会社から、日野FS一〇トントラック一台を平成四年九月二二日に代金一一七六万七七五〇円(消費税込)で購入し(乙二六)、平成五年三月四日、運送業務の外注先である田中高行に対し、右トラックを一六二二万二八九一円で売却し(乙二七)、更に、平成六年三月一七日、同社から同型のトラック一台を代金一一五三万六〇〇〇円(同)で購入し(乙二八)、平成六年五月期の事業年度中に、同じく外注先である山代重春に対し、代金一四七〇万四〇一七円で売却した(乙二九)。

(二)  ところが、原告は、平成四年に購入したトラックに関して、田中高行に対し、平成四年九月二一日から同年一〇月三〇日にかけて三回に亘り、車両代金、車両購入に係る諸費用及び保険料として合計一二八一万六五五二円を貸し付けた旨の、同じく平成五年に購入したトラックに関して、山代重春に対し、平成六年三月一五日及び同年五月三一日の二回に亘り、車両代金、車両購入に係る諸費用として合計一二二四万七四七七円を、それぞれ貸し付けた旨の経理処理を行い、右(一)の各車両売却益を計上しなかった。

(三)  そうすると、車両売却代金から消費税額を控除した金額を平成五年五月期及び平成六年五月期の各益金に算入すべきであり、その金額は、別表17の3、4欄のとおりとなる。

3  右1、2の事実は、本件各事業年度分の法人税につき、青色申告の承認の取消事由である法人税法(以下「法」という。)一二七条一項三号に該当するとともに、本件各事業年度の法人税、平成三年五月期ないし平成五年五月期の各事業年度の法人臨時特別税・法人特別税、及び本件各課税期間の消費税について、国税適法六五条一項、六六条一項、六八条一項、二項所定の重加算税の要件である、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出し、又は納税申告書を提出しなかったとき、に該当する。

なお、法人税について、平成元年五月期、平成四年五月期、平成六年五月期についての本件取消処分(青色申告承認取消)がされたことに伴う特別償却費分(別表17の5欄のとおり)、法人特別税について平成四年五月期の右特別償却費分、消費税について平成五年及び平成六年の課税期間の車両売却額に係る部分(別表17の3欄のとおり)は、国税通則法六五条一項の過少申告加算税の要件に該当する。

4  本件各処分の右1、2以外の各要件は、別表17の右1、2以外のその余の内訳のとおりである。

なお、各税額の算定は、以下のとおりとなる。

(一) 原告は、平成元年五月期、平成四年五月期、平成六年五月期、平成七年五月期の法人税につき、租税特別措置法(平成元年法律第一二号による改正前のもの。以下「措置法」という。)四二条の五第一項四号による特別償却額を計上していたが、本件取消処分により、これを損金に算入できなくなるから、右額を右各事業年度の益金に算入する。右処理により生じた減価償却超過額のうち、翌事業年度以降において認容される額は、翌事業年度以降の損金に算入する。

(二) 平成二年五月期から平成七年五月期までの事業年度の法人税の更正処分に伴う事業税額の増加分は損金に算入する。

(三) 原告は、平成元年課税期間の消費税について簡易課税を選択し、かつ、消費税の経理処理方式として税抜き経理方式を採用していた。前記の架空仕入の金額に含まれていた仮払消費税額は、その全額を益金に算入する。

(四) 原告は、平成二年から平成七年の課税期間の消費税については、原則課税の適用事業者に該当するが、原告の仮払消費税額と更正処分により差引納付すべき消費税額の差額については、雑収入又は雑損失として加減算する。

5  以上のとおりであるから、本件各処分は適法である。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1  被告の主張1の事実は、否認する。本件四業者なる者は、四種類の名前を使い分けているが、実は同一の業者であり、原告と右業者(以下「某社」という。)との問の取引の実態は、以下のようなものであった。

某社は、原告に対し、一方的に電話をかけて残土の引き取り又は砂利の販売の取引を申し込み、原告がこれに応じる旨回答すると、某社の船舶を数時間後に原告が業務に使用している現場(海浜)に差し向け、残土の引き取り又は砂利の荷下ろし作業をする。そして、某社は、原告に対し、架空の名前である本件四業者名が記載・押印された請求書、代金支払先となる福崎口座、三浦口座、岩下口座及び川本口座のいずれかの通帳及び届出印鑑を交付し、原告は、その支払期日に右各口座のいずれかに振込送金をする。その後、原告の担当者が、右各口座のある振込先銀行に赴き、預かった通帳及び届出印鑑を使用して振り込んだ金員を再び引き出し、それを持ち帰って、原告において現金を保管する。後日、某社は、原告に電話連絡をし、現金の集金に訪れ、原告は、右現金とともに預かった右通帳及び届出印鑑を交付する。

このような仕入は他の業者に比較して廉価であったが、某社が領収証を発行しないため、原告としては、振込明細を支払の事実の証拠として利用するため、敢えて右のような支払方法をとった。原告は、某社の真実の名称も所在地も知らず、その船舶の船名も記憶していない。

実際に右の取引が行われたことは、被告が主張する架空仕入に係る経費相当額を原告又はその関係者が蓄財している事実がないこと、仮に平成六年五月期及び平成七年五月期の砂利の在庫高から架空仕入とされる泉南砂利からの仕入分を差し引くと、平成六年一二月から平成七年二月にかけて在庫が最大一二六一立方メートル不足してしまうという結果となること、仕入単価が他の業者よりも安い某社からの仕入があった平成七年五月期までの利益率と、これがなくなったそれ以降の事業年度の利益率を比較すると、後者が低下していることからも裏付けられる。

2  被告の主張2(一)は否認し、(二)の事実は認め、(三)は争う。原告は、本件トラックを購入したことはなく、田中及び山代に対し、本件トラックを売却したこともない。原告は、田中及び山代が日野自動車から本件トラックを購入する資金及び関連諸費用を同人らに貸し付けたに過ぎない。原告と田中及び山代との間の本件トラックの売買契約書は、原告の田中及び山代に対する右の貸金債権の担保として、本件トラックの所有権を原告に留保することを明確にするために作成したものに過ぎない。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1  被告の主張1の事実は、否認する。本件四業者なる者は、四種類の名前を使い分けているが、実は同一の業者であり、原告と右業者(以下「某社」という。)との問の取引の実態は、以下のようなものであった。

某社は、原告に対し、一方的に電話をかけて残土の引き取り又は砂利の販売の取引を申し込み、原告がこれに応じる旨回答すると、某社の船舶を数時間後に原告が業務に使用している現場(海浜)に差し向け、残土の引き取り又は砂利の荷下ろし作業をする。そして、某社は、原告に対し、架空の名前である本件四業者名が記載・押印された請求書、代金支払先となる福崎口座、三浦口座、岩下口座及び川本口座のいずれかの通帳及び届出印鑑を交付し、原告は、その支払期日に右各口座のいずれかに振込送金をする。その後、原告の担当者が、右各口座のある振込先銀行に赴き、預かった通帳及び届出印鑑を使用して振り込んだ金員を再び引き出し、それを持ち帰って、原告において現金を保管する。後日、某社は、原告に電話連絡をし、現金の集金に訪れ、原告は、右現金とともに預かった右通帳及び届出印鑑を交付する。

このような仕入は他の業者に比較して廉価であったが、某社が領収証を発行しないため、原告としては、振込明細を支払の事実の証拠として利用するため、敢えて右のような支払方法をとった。原告は、某社の真実の名称も所在地も知らず、その船舶の船名も記憶していない。

実際に右の取引が行われたことは、被告が主張する架空仕入に係る経費相当額を原告又はその関係者が蓄財している事実がないこと、仮に平成六年五月期及び平成七年五月期の砂利の在庫高から架空仕入とされる泉南砂利からの仕入分を差し引くと、平成六年一二月から平成七年二月にかけて在庫が最大一二六一立方メートル不足してしまうという結果となること、仕入単価が他の業者よりも安い某社からの仕入があった平成七年五月期までの利益率と、これがなくなったそれ以降の事業年度の利益率を比較すると、後者が低下していることからも裏付けられる。

2  被告の主張2(一)は否認し、(二)の事実は認め、(三)は争う。原告は、本件トラックを購入したことはなく、田中及び山代に対し、本件トラックを売却したこともない。原告は、田中及び山代が日野自動車から本件トラックを購入する資金及び関連諸費用を同人らに貸し付けたに過ぎない。原告と田中及び山代との間の本件トラックの売買契約書は、原告の田中及び山代に対する右の貸金債権の担保として、本件トラックの所有権を原告に留保することを明確にするために作成したものに過ぎない。

理由

一  請求原因1ないし5の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  被告の主張1について判断する。

1  前記一の争いのない事実、甲一、一三ないし二〇、二九、三〇、乙二ないし二五、三〇ないし四四、六一(いずれも枝番を含む。)、原告代表者戎野喜晴及び同戎野喜和の各本人尋問の結果、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)  本件四当事者、すなわち「福崎商店」「三浦商店」「岩下海運」「泉南砂利」なる業者が実在するかどうかは全く不明であり、原告は、同一の業者(某社)であると主張するが、その名前も、事務所や店舗の所在地も、担当者なる者の人相さえも、更には、実在することを窺わせる何らの具体的事実も主張せず、その証拠も提出しない。原告代表者戎野喜晴及び同戎野喜和は、その各本人尋問において、平成四年以降、某社なる者と本件仕入先と相当回数の取引をし、相当多額の現金を直接交付したと供述しながら、相手方の外見等の特徴についてすら何ら具体的に説明できない。また、戎野喜和は、某社との仕入の荷下ろし、荷積みにすべて立ち会ったと述べながら、船名を記憶していないと供述する。更には、戎野喜晴及び同戎野喜和は、某社の所在地も電話番号も知らないし、某社への連絡方法もない旨述べた。

(二)  原告は、本件各事業年度において、別表18の1ないし7のとおり、残土処分費用又は砂の仕入代金として本件四業者名義の福崎口座、三浦口座、岩下口座及び川本口座へ金員を振込入金し、その額は、右各表の「金額」欄記載のとおりであり、本件各事業年度毎のその総額は、別紙17の2欄のとおりである。ところが、原告は、右各金員につき、送金手続を採った後、わざわざ、右各口座がある金融機関に、原告の代表者戎野喜晴の妻で戎野喜和の母親である戎野初江又は原告の担当者を派遣し、右振込に係る金員を引き出してその現金を受領した(原告が自ら送金したこれらの金員を引き出したことは、原告も自認するところであり、当事者間に争いがない。)。

(三)  本件四業者の前記各口座への金員の入出金は、右各口座開設以後、右(二)のとおりの、原告からの送金、それに原告自らがした出金のみである。

(四)  原告が保存していた「福崎商店」名義の平成四年六月以降の請求書(それより前の請求書は廃棄されている。)に記載された「姫路市船津町大澤二〇五・福崎太一」の住所氏名については、該当者がいないばかりでなく、姫路市船津町には「大澤二〇五」は存在しない。また、福崎口座の印鑑票に記載された電話番号及び「姫路市船津町大澤二五・福崎太一」も、いずれも架空である。そもそも、姫路市船津町には「大澤二五」も存在しない。

(五)  原告が保存していた「三浦商店」名義の平成四年六月以降の請求書に記載された「徳島県板野郡茂町長原三四四」は架空である。板野郡に「茂町」は存在しない。三浦口座の印鑑票に記載されていた電話番号も「徳島県板野郡松茂町長原三四四・三浦春男」も架空である。

(六)  原告が保存していた「岩下海運」名義の平成四年六月以降の請求書に記載された「明石市林崎三―五五九・岩下良次」の住所氏名も架空である。「明石市林崎三―五五九」なる住居表示は存在しない。岩下名義の印鑑票に記載された電話番号も架空である。なお、右各請求書及び岩下口座の印鑑票では「岩下良次」となっているが、一九九五年(平成七年)七月三日の普通預金払戻請求書(乙第二〇号証の二の三の二一枚目)では「岩下貞次」となっている。また、右口座の印鑑票に記載された岩下良次の生年月日は、大正一〇年一二月一一日であり、原告代表者戎野喜晴の生年月日と同じである。

(七)  原告が保存している「泉南砂利」名義の平成四年六月以降の請求書に記載された「泉佐野市高松東一―一〇一・川本政昭」は架空である。川本口座の印鑑票に記載された電話番号も架空である。

(八)  原告の仕入先で、船を利用した仕入については、右の(四)ないし(七)の本件四業者名義のもの以外の請求書にはすべて船名が記載されているが、右の(四)ないし(七)の本件四業者名義の請求書には船名が記載されていない。

(九)  原告は、本件各処分に対する異議申立て及び審査請求時、更には、本訴を提起した当初は、本件四業者は、実在する別々の業者であることを前提とした主張をし、また本件四業者名義の前記各口座を誰が開設したかは不明である旨を一貫して主張していた。

しかし、本件訴訟において、被告が兵庫銀行の防犯カメラのビデオテープにより、平成六年一一月二四日に三浦口座から払戻手続をしたのが、原告の監査役である戎野初江であることが明らかになった後、原告は、一転して従前の主張を変更し、本件四業者が実は一つの業者であり、本件四業者名義の前記各口座は原告からの支払を後日証明するために原告自身が開設し、原告が送金した金員は、自らが右各口座から引き出した旨の前記の主張をするに至った。

2  右1に認定した事実関係を総合すると、原告は、被告主張1のとおり、自ら架空名義である本件四業者名義の前記各口座を開設し、別表18の1ないし7のとおり、本件各事業年度において、右各口座へ金員の送金手続を採るとともに、その後、右金員を引き出し、更に、架空名義である本件四業者名義の請求書を作成し、これらを基に、被告主張のとおりの架空仕入を装って、本件各事業年度分の法人税、平成三年度五月期ないし平成五年五月期の事業年度の法人臨時特別税・法人特別税、本件各課税期間の消費税の申告又は修正申告をし、又はそれらの申告をしなかったものといわざるを得ない。

被告の主張1の事実が認められる。

3  原告は、本件四業者からの仕入に係る経費相当額を原告又はその関係者が蓄財している事実がないこと、平成六年五月期及び平成七年五月期の事業年度の砂利の在庫高から仮に架空仕入とされる泉南砂利からの仕入分を差し引くと、平成六年一二月から平成七年二月にかけて在庫が最大一二六一立方メートル不足してしまう結果となること、仕入単価が他の業者よりも安い某社からの仕入がなくなった後の事業年度は利益率が低下していることを挙げ、某社及び某社からの仕入は実在していると主張し、これを裏付ける書証として、平成八年五月期から平成一〇年五月期の各事業年度の決算報告書(甲二一ないし二三)及び平成五年五月期及び平成六年五月期の各総勘定元帳(甲三七、三八)を提出する。

しかし、原告又はその関係者による蓄財がなかったとの証明はなく、それが判明していないだけであるばかりか、右甲三七及び三八については、原告の海砂の在庫残高は、平成五年五月期の期首が二〇〇〇立方メートル、期末が九三四四立方メートル、平成六年五月期の期首が九三四四立方メートル、期末が一万一三〇六立方メートルとあるが、他方、原告が依頼した税理士が作成した平成四年五月期ないし平成六年五月期の各事業年度の決算報告書添付の勘定科目の内訳書である甲一〇ないし一二には、右各事業年度の期末の海砂在庫残高は、いずれも二〇〇〇立方メートルとあり、大幅に食い違っており、他に平成五年五月期の期首の海砂の在庫量を確認する資料がないため、右甲三七、三八の記載内容を直ちに採用することはできない。

結局、砂利の在庫の数量についての原告の右主張自体も、これを認め得る的確な証拠がない。また、原告代表者戎野喜和は、その本人尋問で、原告では仕入れた海砂の品質が劣る場合には、単価を安くするのではなく、仕入数量を実際より少なく記帳する方法によって支払額を調整すると説明しており、この方法によれば品質の劣る海砂を仕入れる都度、帳簿上の在庫高より現実の在庫高の方が多くなる関係になり、必ずしも帳簿上の計算で在庫が不足するからといって、現実に在庫がなくなることにはならないともいえる。

いずれにしても、原告の主張を前提としても、税務当局に対し、原告は、積極的に、しかも相当計画的に大規模な偽装工作を行ったことになり、本件証拠上も、右2の認定を左右するに足りるものはない。

三  被告の主張2について判断する。

1  被告の主張2(二)の事実は、当事者間に争いがなく、右事実、乙二六ないし二九、乙六八ないし七〇、甲二四、二五、三六(いずれも枝番を含む。)、原告代表者戎野喜和、同戎野喜晴の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、被告の主張2(一)の事実のほか、原告は、本件トラックの転送先である田中及び山代との間で、それぞれの転売代金債権につき、右同人らの原告に対する外注費の請求権から分割で清算して支払うとの合意をしていたこと、以上の事実が認められる。

2  原告は、これに対し、本件トラックを日野自動車から購入したのは、原告ではなく、田中及び山代であり、原告は同人らに購入資金及び諸費用等を貸し付け、その貸金債権の担保のために本件トラックの所有権を留保したのであると主張し、田中及び山代に対する金銭借用証書(甲二四の三、二五の二)、田中の日野自動車に対する注文書控(甲二四の二)等の書証を援用する。

しかしながら、日野自動車と田中及び山代の間の売買契約書は存在せず、むしろ、日野自動車と原告との間の売買契約書並びに原告と田中及び山代との間の各売買契約書が存在すること(乙二六ないし二九)、原告の田中及び山代に対する右金銭借用証書である甲二四の三、二五の二は、被告による税務調査から国税不服審判所長の裁決に至るまでの間には提出されず、本件訴訟において初めて提出されたもので、収入印紙も貼付されておらず、それらが日付けどおりの平成四年一〇月三〇日や平成六年七月一日に作成されたかどうか疑問があるといわざるを得ない。また、右借用証書には、利息の定めも、原告が所有権を留保できる旨の定めもなく、原告の主張の裏付けとして不十分であり、貸付であれば、例えば田中の場合には、平成五年五月期から平成八年五月期までの各返済期日に受取利息を益金として計上する必要があるところ、原告代表者両名の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告はこのような処理をしていないことが認められる。更に、実際に本件トラックを使用するのが田中及び山代である以上、同人らが使用者として登録され、本件トラックに係る税及び損害賠償責任保険料を負担するのは当然であり、これらの事実は、必ずしも同人らが直接に日野自動車から本件トラックを購入したことを証明するものではないと考えられる。

以上、いずれにしても、原告の右主張は、採用できない。本件トラックの売却代金相当額は、被告の主張のとおり、それぞれ該当事業年度の益金に計上すべきである。

四  被告の主張4の事実は、原告において、これらを明らかに争わないことから自白したものとみなす(国税通則法六八条三項括弧書きの「隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるとき」の要件については原告において主張・立証をしない。)。

五1  前記二の1、2の認定事実によれば、原告には、本件各事業年度の法人税につき、法一二七条一項三号所定の青色申告の承認の取消事由があったことが明らかであり、本件取消処分は適法である。

2  前記二ないし四の各判断を前提とすると、原告は、本件各事業年度分の所得につき、架空仕入を計上するなどして仮装・隠ぺいをしたもので、それに基づいて、申告をし、又は申告をしなかったというべきであるから、本件各事業年度分の法人税、平成三年五月期ないし平成五年五月期の事業年度の法人臨時特別税・法人特別税、及び本件各課税期間についての消費税につき、国税通則法六五条一項、六六条一項、六八条一項、二項所定の重加算税の要件があるというべきである。なお、法人税について、平成元年五月期、平成四年五月期、平成六年五月期の本件取消処分(青色申告承認取消)に伴う特別償却費分(別表17の5欄のとおり)、法人特別税について平成四年五月期の右特別償却費分、消費税について平成五年及び平成六年の課税期間の車両売却額に係る部分(別表17の3欄のとおり)は、国税通則法六五条一項の過少申告加算税の要件に該当する。

3  以上のとおりの判断に加え、青色申告承認処分を前提とする措置法四二条の五第一項四号による平成元年五月期の特別償却費の益金への算入とそれに伴う平成二年五月期以降の事業年度の普通償却費の損金への算入、平成元年五月期から平成六年五月期の事業年度の法人税等の更正処分に伴い増加した事業税の平成二年五月期から平成七年五月期の損金への算入、仮払消費税額と納付すべき消費税額の差額処理をして得られる原告の本件各事業年度の所得金額は、別表17の11欄のとおりとなり、右所得金額に基づいて算出される本件各事業年度の差引合計法人税額、過少申告加算税額、重加算税額、差引法人臨時特別税額・法人特別税額、その過少申告加算税額、重加算税額、差引消費税額、その過少申告の加算税額、重加算税額は、それぞれ、同表の14、17、18、21、24、25、33、36、37欄の額となる。

4  そうすると、右各金額の範囲においてされた本件各処分は、いずれも適法である。

六  結論

以上のとおり、本件各処分は、いずれも適法にされたものであり、原告の請求は理由がないから、これを棄却することにする。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 平野哲郎 裁判官 山田真依子)

別表1 課税の経緯(法人税)

〈省略〉

別表2 課税の経緯(法人税)

〈省略〉

別表3 課税の経緯(法人税)

〈省略〉

別表4 課税の経緯(法人税)

〈省略〉

別表5 課税の経緯(法人税)

〈省略〉

別表6 課税の経緯(法人税)

〈省略〉

別表7 課税の経緯(法人税)

〈省略〉

別表8 課税の経緯(法人臨時特別税)

〈省略〉

別表9 課税の経緯(法人特別税)

〈省略〉

別表10 課税の経緯(法人特別税)

〈省略〉

別表11 課税の経緯(消費税)

〈省略〉

別表12 課税の経緯(消費税)

〈省略〉

別表13 課税の経緯(消費税)

〈省略〉

別表14 課税の経緯(消費税)

〈省略〉

別表15 課税の経緯(消費税)

〈省略〉

別表16 課税の経緯(消費税)

〈省略〉

別表17

〈省略〉

別表17の説明資料

以下、各欄について説明する。

1.12欄「所得金額に対する法人税額」は、11欄「所得金額」の1000円未満の端数を切り捨てた金額(国税通則法118条1項)に、税率(法人税法66条1項、2項)乗じて計算した。

なお、適用税率は、平成元年5月期は42%・30%、平成2年5月期は40%・29%、平成3年5月期から平成7年5月期については37.5%、28%を適用して計算した。

2.14欄「差引合計法人税額」は、100円未満の端数金額を切り捨てた金額である(国税通則法119条1項)。

3.17欄「過少申告加算税」は、計算の基礎となる税額の1万円未満の端数を切り捨てた後の金額(国税通則法118条3項)に、100分の10の割合を乗じて計算した。

4.18欄「重加算税」は、計算の基礎となる税額の1万円未満の端数を切り捨てた後の金額(国税通則法118条3項)に、100分の35の割合を乗じて計算した。

5.19欄及び29欄「課税標準法人税額」は、1000円未満の端数を切り捨てた金額(国税通則法118条1項)である。

6.20欄「法人臨時特別税・法人特別税」は、19欄「課税標準法人税額」に、100分の2.5の割合を乗じて計算した。

7.21欄「差引法人臨時特別税額・法人特別税額」は、100円未満の端数金額を切り捨てた金額である(国税通則法119条1項)。

8.24欄「過少申告加算税」は、計算の基礎となる税額の1万円未満の端数を切り捨てた後の税額(国税通則法118条3項)に、100分の10の割合を乗じて計算した。

9.25欄「重加算税」は、計算の基礎となる税額の1万円未満の端数を切り捨てた後の税額(国税通則法118条3項)に、100分の35又は100分の40の割合を乗じて計算した。

なお、適用税率は、平成3年5月期及び平成5年5月期は40%、平成4年5月期は35%を適用して計算した。

10.30欄「課税標準額」は、1000円未満の端数を切り捨てた金額(国税通則法118条1項)である。

11.33欄「差引消費税額」は、100円未満の端数金額を切り捨てた金額である(国税通則法119条1項)。

12.36欄「過少申告加算税」は、計算の基礎となる税額の1万円未満の端数を切り捨てた後の税額(国税通則法118条3項)に、100分の10の割合を乗じて計算した。

13.37欄「重加算税」は、計算の基礎となる税額の1万円未満の端数を切り捨てた後の税額(国税通則法118条3項)に、100分の35の割合を乗じて計算した。

別表18-1

架空仕入の明細(平成元年5月期)

〈省略〉

別表18-2

架空仕入の明細(平成2年5月期)

〈省略〉

別表18-3

架空仕入の明細(平成3年5月期)

〈省略〉

別表18-4

架空仕入の明細(平成4年5月期)

〈省略〉

別表18-5

架空仕入の明細(平成5年5月期)

〈省略〉

別表18-6

架空仕入の明細(平成6年5月期)

〈省略〉

別表18-7

架空仕入の明細(平成7年5月期)

〈省略〉

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